議員報酬の適正化
前回の記事において、南アルプス市議会では、議員定数・報酬適正化部会が発足したと記述したが、報酬については触れていなかった。今回はその点について私見を述べる。
なぜ、報酬の適正化が必要かについては、定数問題の記事と重複する点があるので参照願いたい。
議員報酬の性質と法的位置づけ
まず大前提として、議員の報酬とはなにか。一般的には、「給与」と受け止められているが、同じ「議員」である国会議員と地方議員(都道府県・市町村)では、性質が異なっている。国民全体の代表として極めて重い責務を負っている国会議員には、他の職業を気にせず職務に専念できるよう、手厚い歳費(生活給を含む)が保障されている。一方、地方議員に支払われる報酬は、職務専念を前提とした生活保障給として規定されているわけではない点に特徴がある。
地方議員は地方公務員の特別職と定められ、一般的な公務員(常勤)として規定されておらず、むしろ他の職業を持ちながら住民の代表として活動することを許容・想定されてきた歴史的背景がある。
専業議員から見た報酬の実態
南アルプス市議の報酬は、月額35万円である。これが多いと感じるか、少ないと感じるかについては個人によって異なるだろう。現在、議員専業である私の場合、いわゆる手取り額は、約25万円である。本議会には、議員個人が自由な裁量で使える政務活動費の枠はなく、また会派支給分も使途が限定されているため、個人的な研修費や会合費、広報紙の印刷代や事務用品、交通費など諸々の支出を上記の手取り額から捻出しなければならない。また、4年に1度訪れる選挙費用も、コツコツ積み立てる必要がある。私は、すべて承知のうえで専業を選択しているから、不満をいう立場にないが、現役世代が参画するには、大きな障壁のひとつであると感じている。
報酬増額を主張する理由
本部会において、私は報酬増の立場を採っている。理由は次の通りである。
1. 市民の声
まず、私が市民の方々から頂いた声の多くに、「もっと若者世代が議員として活躍してほしい」というものがあった。また当選直後から、「市議の報酬では生活が成り立たないだろう」といった意見も多く、市民感覚としても、現行の月額35万円では、議員活動と生計の両立は困難であるという認識が少なからず存在すると感じている。現役世代による政治参画を促進するためには、議員活動の実態を適切に開示するとともに、個人の資産状況に依拠せず、強い意欲と能力を有する人材が公正に参入できる制度的環境の整備が不可欠である。
2.議員活動の多様化
地方分権の進展に伴い、議会が扱うべき行政課題は、防災、福祉、経済など複雑化・専門化し、議員には条例の調査研究、委員会での審議、議会報告会など、フルタイムに近い活動量が求められるようになってきている 。本議会においても、予算審議方法の変更に伴う審議日数の増加、新たな委員会や部会の創設による調査研究項目の拡充など、実質的に職務が増加していることから、実状に見合った処遇改善が必要である。
適正な報酬額の基準
では、実際に増額を主張するうえで、どの程度の報酬が適当であるか。
適正な議員報酬については、様々な地方自治体で議論がなされ、いくつかの算定方法も示されているが、統一的な基準は確立されておらず、定数同様に自治体毎の判断に委ねられている。
私は、上述した報酬増にすべき理由に基づいて、現役世代が議員に専念し生計が維持できる金額が妥当であると考え、子育て世代の40代~50代の公務員年収(600~800万円)を参考にしつつ、地方公務員の平均年収である約660万円前後が一つの基準になると考えている。
なぜ公務員給与を参考とするか、その理由は次の通りである。
- 制度設計の類似性
企業の利潤追求とは異なり、公共の利益に奉仕するという職務の性質上、公正な職務執行を担保する必要性や、その職責・社会的重要性に見合った身分保障という、根底にある制度設計に準ずるものがあるため。 - 決定プロセスの合理性
公務員給与は、人事院・人事委員会という中立的な第三者機関が、民間の給与実態を詳細に調査した上で勧告(民間準拠)して決定される。基準が曖昧になりがちな議員報酬において、民間の実態を反映した公正なプロセスを経た数値を参考にすることに、一定の合理性があるため。
民主主義への未来投資として
以上が、議員報酬(南アルプス市議会における)についての私見である。もちろん、報酬の適正化を議論する大前提として、私たち議員一人ひとりが市民の負託に応えるための不断の努力を続ける責務があることは言うまでもない。
金額そのものに注目されがちな論題であるが、これは単なる議員の待遇改善といった問題ではなく、多様な背景を持つ有為な人材が議員活動に専念できる環境を整備し、市民の負託に応える議会形成のための、いわば民主主義への未来投資である。先輩・同僚議員やこれから議員を志す方、主権者である市民の方々の意見も伺いながら議論を煮詰めていきたい。

